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近視矯正のレーザー手術――その効果とリスク

 目と目の間に残る眼鏡の跡が、気にならない人もいるだろう。コンタクトレンズを洗浄するのが大好きという人もいるかもしれない。だが、世界中で眼鏡やコンタクトレンズを付けている何百万人もの人々のうち、大部分はこう考えたことがあるに違いない。「もしも目が良かったら、どんなに素晴らしい人生だろう。眼鏡が湿気で曇ったり、コンタクトを流し台に落として大騒ぎすることもない。あわてて仕事に出かけて、眼鏡を忘れる心配だってなくなる」

 その夢が、現実になるのだ。しかもたったの15分で。眼科で手術用のいすに腰掛け、レーザーでちょっと目の形(正確に言えば、角膜の形)を変えてもらうだけのこと。立ち上がってあたりを見まわせば、そこはまぶしいまでの別世界――。

 「レーシック」は、そんな手術だ。少なくとも医師たちはそう言うし、経験者たちも熱っぽく語ってくれる。「伴角膜弁レーザー角膜形成術」、略して「LASIC(レーシック)」の人気は、米国内だけでなく、リッチなアジア人たちの間でも急上昇中だ。

 知り合いにレーザー経験者がいる人も多いだろう。昨年、米国内で「レーシック」を受けた人は50万人と、一昨年の2倍を記録した。台湾の病院では1カ月に1000件のペースで「レーシック」をこなしているし、日本でも、今年1年間にレーザー手術を受ける人は3万人に達すると見られている。

 アジアでは、「レーシック」の潜在的需要が特に大きい。目の悪い人の割合は、日本で6割、香港でも半分以上にのぼる。よく勉強する台湾の大学生は、何と95%が近視だという。また、米国では片目につき2500ドルという手術費用も、アジアでは約半額で済む。旅行者を呼び込む目玉として、「安くて質の良い医療」を掲げるタイなどは、片目がわずか600ドル。インドではさらに安くて、160ドルで手術を受けることができる。

 米国での実績を見ると、「レーシック」を受けた患者のうち、7割が視力1.0まで回復している。残りの患者も、ほとんどがめがねなしで運転ができるようになった。一部の医師によれば、「レーシック」の技術は今後さらに進んで、2010年までには9割の患者が1.0以上の視力を回復できるようになるという。最近登場したばかりの手術としては、大した好成績だ。

 患者の喜び方も並大抵ではない。「『レーシック』で私の人生は変わりました」と話すのは、韓国で銀行に勤める36歳の女性だ。「以前の私は、コンタクトレンズがなければ何も見えないに等しかった。それが今では、目覚めればすぐに、自分の目で世界を見ることができるのです」

 アジアの人々にとって、「レーシック」の持つ意味は格別だ。シャワーを浴びるときに足の先が見えるかどうか、といった実用的な面だけにとどまらず、眼鏡をかけることを恥とする文化が、あちこちに見受けられるからだ。例えば、かつてある地域では、眼鏡姿の女性は不運を招くと信じられ、タクシーに乗ろうとしても乗車拒否にあうのが常だった。また、インドで手術を受ける人の大部分は、結婚のチャンスをつかむことが目的だという。

 だがここで少し冷静になって、専門家の話を聞いてみよう。過去4年間にわたり、毎週「レーシック」を施術しているというカリフォルニア大学デービス校のマーク・マニス博士はこう語る。「慎重に選ばれた症例のうち、大部分のケースで、高い成果をおさめています」――そして、「私の言ったひと言ひと言に、よく注意してください」とつけ加える。

 手術が成功するためには、一定の条件があるのだ。「最適なのは、視力の安定した大人で、近視などの程度がそれほど重くなく、目に他の病気がないケース」だという。さらに、たとえこうした条件が満たされていても、治療不可能な合併症を起こすこともある。

 ここで注意しなければならないのは、「視力1.0」というのが、必ずしも「完璧な視力」と同義ではないことだ。通常の視力表による検査は、明るく、はっきりと見えやすい条件のもとで行なわれる。しかし、広い意味での視力には、薄暗い中でどれだけ見えるか、灰色の濃さの違いをどれだけ見分けられるか、といった要素も含まれ、「レーシック」によってこれらの能力が低下することもありうるのだ。

 米ニュージャージー州に住むスティーブン・アセナタさんのケースが、まさにそれだ。「もとの状態より悪くなる可能性があることを知っていたら、手術をやめたかもしれないのに」と、アセナタさんは話す。確かに、とりあえず一方の目は視力1.0になったが、かわりに物が2重に見えるようになってしまった上、夜間の視力が落ちて、日没後は運転ができなくなってしまった。「手術は必要なものではなかったとわかっているだけに、悔やしさがつのります」と、アセナタさんは言う。コンタクトレンズがいやになって手術を受けたが、そんなことをしなくても、分厚いめがねをかければ問題なく見ることができたのだ。

 アセナタさんのように深刻な合併症を起こしたケースについて、確かな統計はない。ある推計によると、合併症の発生率は、角膜専門医で手術を受けた場合は1%以下、経験の浅い眼科医のもとでは5%にのぼる。さらに、10%から15%の患者は、再手術を受けているという。これは、合併症というより「増強」のための手術と見なされるが、再び切開し、レーザーを当てるという作業が必要になる。そして何より、「レーシック」にはまだ、長期的な追跡データがない。10年、20年、あるいは30年たって、他の問題が起きてこないという保証はない。

 「レーシック」は、まだ若い技術なのだ。米国で「レーシック」に使われるレーザーのほとんどは、食品医薬品局(FDA)が他の眼科手術向けに承認したものだ。こうした「転用」でなく、「レーシック」専用のレーザーがFDAの承認を受けたのはごく最近、1998年7月のことだ。

 過去2年ほどの間に、「レーシック」の技術は飛躍的に進歩した。そのため、医師がみずから手術を受けるケースも増えている。だが果たして、あなたには「レーシック」が向いているのか?――その答えを知るためには、多少の医学的知識を持っていた方がいい。

 人間の眼球のまわりは、「強膜」という固い層で保護されている。眼球の前面だけは、強膜の代わりに透明な「角膜」で被われ、光はこの「角膜」を通って「瞳孔」に達する。「瞳孔」は、「虹彩」(一般に言う黒目)の真ん中にあいた穴で、ちょうどカメラの絞りのように、入ってくる光の明るさに応じて閉じたり開いたりする。

 「瞳孔」を通った光は、「虹彩」のすぐ後ろにあるレンズ、「水晶体」を通過する。「水晶体」は、必要に応じて厚みを変えることにより、光の屈折を調節し、「網膜」上にうまく焦点が合うようにする。「網膜」の細胞が、光を電気信号に変え、その刺激が視神経を通って脳の視中枢まで行くと、ここで物のかたちや色が認識されることになる。

 網膜上に焦点を合わせるためには、水晶体だけでなく、角膜による屈折の調節も必要だ。外から入った光は、まず角膜のわん曲によって屈折し、さらに水晶体の厚みに応じてもう1度屈折してから、網膜まで進む。近視というのは、角膜のわん曲が大きすぎて光が曲がりすぎるか、または眼球の奥行きが長すぎるため、網膜より手前で焦点が合ってしまう状態だ。遠視の場合は逆に、角膜のわん曲が小さすぎるか、あるいは眼球の奥行きが短すぎて、焦点の位置が網膜より後ろに来てしまう。乱視は、角膜のわん曲の具合が均一でない場合に起きる。

 年をとると、近くを見るのに老眼鏡を使うようになる人が多いが、この老眼は、遠視とは違い、角膜のわん曲状態や眼球の奥行きとは関係なく起きる。水晶体の調節力が、年とともに弱くなるのが原因だ。

 手術で角膜の形を変え、屈折率を矯正しようとする試みは、1950年代から始まった。1970年代のソビエトでは、メスを使って角膜の形を整える近視治療が盛んに行なわれた。「RK(放射状角膜切開術)」と呼ばれる方法だ。しかし、結果の予測がつきにくく、術後の痛みも長引いたため、あまり広く受け入れられることはなかった。

 そこへ登場したのが、エキシマレーザーだ。1970年代に開発され、まずは数百分の一ミリ幅という半導体チップの配線を作るのに応用された。短波長の強力な光を発射するが、光が当たった部分のまわりは温度が上がらないため、「クール・レーザー」とも呼ばれる。精密さが要求される眼科手術には、まさにうってつけの技術だ。米国企業のサミット・テクノロジーがいちはやく眼科手術への応用に取り組み、今日では、同社とビジックスの2社が、眼科用レーザー業界の最大手となっている。

 エキシマレーザーは、まず「PRK(屈折矯正角膜形成術)」という治療法に使われた。「PRK」では、最初に角膜の表面にある「角膜上皮」を削りとる。そこへレーザーを当てて中の組織を蒸散させることにより、角膜の形を整えて、ちょうどいい曲がり方に作り変える。近視の場合は中央部を削ってカーブを平らにし、遠視の場合はまわりをドーナツ型に削って、急なカーブを作り出すのだ。上皮は術後に再生するが、角膜の新たな形はそのまま保たれる。「RK」に比べると大きな進歩だったが、相変わらず回復に時間がかかり、痛みも残るのが難点だった。

 この問題を解決したのが、「レーシック」だ。角膜上皮を削りとるかわりに、「マイクロケラトーム」と呼ばれる特殊なメスを使って表面を薄くはがすのだが、この時一方の端はつなげたまま残し、ふた状の「フラップ」にしておく。「フラップ」をそっと開けて、中の形をレーザーで直し、終わったらまた「フラップ」をかぶせる。数分間乾燥させれば、「フラップ」の部分はまわりとつながって、元通りになる。この方法なら、術後の回復も早く、痛みも格段に軽い。手術の直後には、もう目を開けて見ることができる。

 ただしもちろん、手術が成功すればの話だ。まれではあるが感染症を起こす危険もあるし、医師が誤って「フラップ」を全部切り取ってしまったり、かぶせ方が悪くてしわができてしまうこともありうる。そうなったら、常にしわのよったラップを通してまわりを見ているようなものだ。最悪の場合は、アセナタさんのケースのように、めがねをかけても矯正できないような異常が残ってしまう。

 「レーシック」の手術を受けた後、ほとんど全ての患者に多かれ少なかれ見られるのが、「ハロ」という症状だ。夜間や蛍光灯の下で、まぶしく感じたり、光のまわりがぼやけて見えたりする。通常は6カ月以内におさまるが、長期間続く患者も5%ほどいるとみられる。

 「ハロ」は、角膜上の矯正を施した部分と、そうでない部分との境目を、光が通る時に起きる。境目の輪は、通常は虹彩の後ろに隠れているが、暗い時に瞳孔が開くと露出し、ここを光が通過することになるのだ。現在使われているレーザー装置によって矯正できる範囲は、直径6.5ミリ内。瞳孔の開き方が大きい患者で、この範囲よりも大きく開く場合は、「ハロ」がひどくなる。また、近視などの程度が重い場合も、レーザーで削る部分が厚く、境目の段差が大きくなるため、「ハロ」が出やすくなる。

 だが、今後10年ほどの間に、技術の進歩に従い、これらの限界も変わる可能性がある。現在のレーザー装置は、角膜の形を球形の一部と見なした上で稼動しているが、もっと厳密に、個々の患者について角膜の表明全体を測る器具の開発も進んでいる。これにより、各患者の異常に応じた細かい矯正を行なうことが可能になる。いわば特注の手術ができるわけで、治療効果もより確実なものとなるだろう。

 とは言え、技術の進歩を5年も10年も待っていられないという人も多いはずだ。そこで、現時点で「レーシック」を受ける場合、成功の可能性をできるだけ高くするにはどうしたらいいか、いくつかのポイントを挙げておこう。

 ▽過剰な期待はしないこと。めがねやコンタクトレンズが二度といらなくなるなどと思っていたら、がっかりすることになる。「レーシック」は老眼には効果がないので、35歳以上の人は、読書や細かい作業をするのに老眼鏡が必要だろう。夜間や映画館などでも、めがねが必要になる可能性が高い。

 ▽時間をかけて、いい医師を探すこと。その医師は、納得のいく説明をしてくれるか。強引なセールストークで丸めこもうとしていないか。手術の15分前になって初対面というのではなく、事前に患者と会って、目を診察し、病歴を尋ね、質問に答えてくれる医師を選ぼう。本人や家族に、角膜の異常、糖尿病、自己免疫疾患などの既往歴があったら、必ず医師に知らせよう。このような場合は、レーザー手術によって、視力に深刻な障害が生じる危険性が高くなる。目が特に乾燥する人や、目にヘルペス性の感染症がある人も、手術には適さない。そして、もし最初に会った医師から手術を断られたら、別の医師を探し歩いたりしないことだ。

 ▽医師の「レーシック」歴を尋ねよう。中には、週末の講習を受けただけで、いきなり実践に入ってしまう眼科医もいる。もともと腕の良い医師ならそれでも十分かもしれないが、できたら角膜の専門医で、さらに1、2年の訓練を積んだような、経験豊かな医師を選ぶ方がいいかもしれない。初期の研究によれば、合併症の発生率は、医師が300例の手術を経験した時点と、600例の時点で、急激に下がるという。もっとも、今では訓練方法も技術も進んでいるので、25例から50例の経験で完璧に執刀できるようになると主張する者もいる。また、自分の手術による合併症の発生率を教えてくれないような医師は、やめておいた方がいい。その医師の患者の中で、術後に視力が悪化し、コンタクトやめがねをつけても改善しないケースはどのくらいあったか、尋ねてみるといい。トップクラスの医師の場合、こうしたケースは1000人に3人以下の割合だという。

 ▽自分がなぜレーザー手術を受けたいのか、じっくり考えてからにすること。米ジョージア州アトランタで視力矯正センターを開いているジョージ・ワーリング博士は、「あなたが持っている目は1対だけ。それを手術をするのです」と強調する。視力が悪化し、2度と回復しない危険性も、わずかではあるが確かにある。その危険性を補って余りある利点があるかどうか、決められるのは本人だけだ。眼鏡やコンタクトレンズで満足しているのなら、そのままにしておく方がいいだろう。気を変えることは、いつでもできる。技術がさらに進み、可能性がさらに広がるのを見届けてからでも、決して遅くはない。


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